日本各地の鍋料理

◆鍋料理の歴史
近代以前の日本の住居には、台所にある竈(かまど)とは別に、調理のほか照明や暖房を兼ねた囲炉裏が用意されることが多く、そこで煮炊きした料理を取り分けて食べる事は日常的に行われていました。調理された煮物を各々に配膳せず鍋のまま供する方法は17世紀の中頃に記録に現れ始めます。18世紀後半になって、囲炉裏の無い町屋や料理屋で火鉢やコンロを使用した『小鍋仕立て』という少人数用の鍋が提供され、鍋から直箸で何人かがつつくという現代見られる鍋料理が発達しました。 しかし、小鍋仕立ては竈神信仰や銘々膳、箱膳による食事スタイルなど、それまでの社会的習慣と相容れないものであり、一般の家庭には浸透しませんでした。
その後明治に入ってからの牛鍋の流行やちゃぶ台の普及などにより、鍋料理は一般家庭への普及がみられました。調理の近代化が進み調理の熱源が木質からガスなどに転換するにつれて、加熱をしながら食べるという方式は飲食店での提供が主となりました。そして、カセットコンロなどの発明と普及により、再び家庭でさかんに鍋料理が食べられるようになっていきました。
◆日本各地の鍋料理
日本各地には地域ならではの食材や特色を持つ鍋料理が本当にたくさんあります。ここではご当地鍋料理のいくつかをご紹介しましょう。
・飛鳥鍋(奈良県)
鶏ガラの出汁とともに、牛乳を加え、まろやかさとコクを加えるものです。具は普通の鍋料理と同じ。好みでネギやショウガを加えたり、片栗粉を水で溶かして加えて、汁に少しとろみを加えて食べることもあります。
あ行
・あんこう鍋(茨城県、福島県)
「キアンコウ(ホンアンコウ)」を主な具材とする鍋料理。一般的に「西のふぐ鍋、東のあんこう鍋」と言われ冬の代表的な鍋料理として東日本において広く食べられていますが、特に茨城県および福島県いわき市の鍋料理として、多くの店で提供されています。
・石狩鍋(北海道)
鮭を主材料とし味噌で調味した日本の鍋料理で、北海道の郷土料理です。塩鮭を用いた三平汁と混同されることが多いのですが、石狩鍋は味噌仕立てで、塩漬けしていない生鮭を使用します。
・石焼き鍋(秋田県・静岡県)
男鹿地方の猟師料理が原型と言われており、とれたての魚や野菜を海岸のくぼみに入れ、体を温めた火で熱した男鹿石を入れたとされています。現在は杉の桶を容器とし石を入れる度に湯気が立ち込め、一気に調理してしまう豪快で野趣あふれる料理です。
・いしる鍋(石川県)
石川県能登地方特産の「いしる」を使った鍋。いしるとは、イワシやイカの内臓を塩漬けにし、ひと夏寝かせ自然発酵させた後、その汁を煮詰めこして作る、醤油に似た調味料です。
・猪鍋(群馬県、静岡県)
いのしし肉を入れた鍋料理で、野菜・きのこ類・豆腐・こんにゃくなどとともに煮込みます。砂糖・みりんを加えたみそ仕立てにすることが多いです。「ぼたん鍋」「しし鍋」ともいいます。
・芋煮(青森県を除く東北地方および新潟県)
里芋やこんにゃく、ねぎ、きのこ類、季節の野菜などを主な具材とした鍋料理です。 江戸時代、京都との文化交流から入ってきた料理がルーツとされています。
・魚すき(大阪府)
鯛、鱧、鰆、海老、いか、貝類など季節の鮮魚と野菜、焼豆腐、生麩その他多種類の材料を、醤油味のだし汁(割下)で煮ながら食べます。牛肉のすき焼きと同じように溶き卵につけて食べることもあります。
・うどんすき(大阪府)
大阪の郷土料理で、薄味のだし汁でうどんと様々な具材を煮ながら食べる寄せ鍋の一種です。
か行
・かしわ鍋(愛知県)
愛知でかしわといえば、鶏肉のことです。鶏のうま味が溶け込んだ鶏だしで具を煮て、ポン酢しょうゆでさっぱりといただきます。レバーを入れるところも特色です。
・かにちり(福井県、兵庫県)
昆布だしだけで煮る水炊き鍋です。ポン酢醤油などをつけて食べます。
・かもすき(滋賀県)
滋賀県湖北地方を代表する料理で琵琶湖のマガモを使用します。11月から2月にかけての冬の味覚として親しまれ、寒くなるほど身がしまり、脂がのるマガモは、弾力のある歯ごたえと鴨独特の脂の甘さ、あっさりとした味わいが特徴です。
・キジ鍋 (日本各地)
昆布と鰹節のだし汁にキジ肉、白菜、ねぎ、にんじんなどの野菜を入れ煮込みます。キジ肉は、蛋白質が多く脂肪分が少ないヘルシーミートです。
・きりたんぽ鍋(秋田県)
きりたんぽ(切蒲英)とは、つぶした粳米のご飯を杉の棒を先端から包むように巻き付けて焼いたたんぽ餅を、棒から外して食べやすく切ったものです。鶏(比内地鶏)がらのだし汁に入れて煮込で食べる秋田県の郷土料理です。
・クエ鍋(高知県)
「クエ」は、専門の漁師でも月に数本しか獲れない大変貴重な魚です。大きいものでは体長2メートル、重さ150kgになることもある巨大魚で、体表には不規則な文様があることから「九絵」と表記されることも。まるで肉のようにしっかりとした身と、脂がのったうまみの強さが特長です。
さ行
・桜鍋(東京都・長野県・熊本県)
馬肉(桜肉)をすき焼きのようにして食べる鍋料理です。味噌仕立てで馬肉を煮る桜鍋は、明治初期から続く東京の伝統料理です。
・三平汁(北海道)
北海道の郷土料理。昆布で出汁をとり、鮭、ニシン、タラ、ホッケなどの魚の塩引きまたは糠漬け(糠ニシン)をダイコン、ニンジンなどの根菜類やジャガイモと一緒に煮た塩汁で、冬の名物料理です。
・しっぽく鍋(大阪府)
大阪の郷土料理で、鶏肉、白身魚、季節の野菜などをしょうゆ仕立てのだし汁で煮る寄せ鍋です。
・しょっつる鍋(秋田県)
しょっつる(塩魚汁)は、秋田を代表する調味料で、魚を塩で漬け込んで発酵させ、2~3年もの醸成工程を経て、骨が溶けて形がなくなった後に火を通して保存したものです。
・ジンギスカン鍋(北海道)
中央部が凸型になっているジンギスカン鍋を熱して羊肉の薄切りと野菜を焼き、羊肉から出る肉汁を用いて野菜を調理しながら食べる、北海道の名物料理です。
・水軍鍋(愛媛県)
瀬戸内海の魚介類と海草をたっぷり入れ、昆布などを使った出汁で煮込む、広島県尾道市因島や愛媛県今治市周辺で作られる鍋料理の一つです。
・せんべい汁(青森県八戸市)
せんべい汁には、南部煎餅の中でもせんべい汁の具にすることを前提に焼き上げた「かやき煎餅(おつゆ煎餅・鍋用煎餅)」を使用します。これを手で割ったものを、一般的に醤油ベース(味噌・塩ベースもあります)の鶏や豚の出汁でごぼう、きのこ、ネギ等の具材と共に煮立てます。
・せり鍋(宮城県仙台市.正式名は仙台せり鍋)
宮城県の郷土料理。宮城県名取市などがせりの栽培をする名産地として有名で、せりを根っこから葉の先まで贅沢にどっさりと、鶏肉(鴨肉なども)一緒に鍋にした、健康かつ絶品な鍋料理です。
た行
・だご汁(だんご汁)(大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県)
小麦粉をこねて、それを手で引き延ばした麺状のだんご(=だご)を、味噌または醤油仕立ての汁で食べる素朴な味わいの料理です。具にはごぼう、にんじん、しめじ、豚肉などが入り、豚汁によく似ており、作り方も簡単なポピュラーなメニューなので、この地の娘は「だご汁が上手に作れるようになればいつでもお嫁に行ける」と聞かされているそうです。
・たら汁(富山県)
日本海側のタラの漁獲がある地域に存在しているタラの郷土料理のひとつです。主にスケソウダラを味噌汁で煮た味噌煮込み料理です。
・ちりとり鍋(大阪府)
ちりとりの形に似た底の浅い四角い鍋を使うことが名の由来。大阪に住む韓国の人たちが、日本のすき焼きに満足できず、生みだした料理といわれます。牛赤身とホルモン、山盛りの野菜を一緒に煮て食べる。
・てっちり(大阪府、山口県、福岡県)
鉄とは鉄砲の略でフグのことでフグのちり鍋です。フグも鉄砲も当たると恐いということからこうよばれています。
・土手鍋(広島県)
味噌を鍋の内側に土手のように塗り、その中でカキや豆腐、白菜や春菊などの野菜を煮込んで食べる郷土鍋です。
・どぜう鍋(東京都)
どぜう鍋(どじょうなべ)は、ドジョウを煮た鍋料理で、江戸の名物料理です。
・どぶ汁(茨城県、福島県)
福島県南部から茨城県沿岸部にかけて伝わる料理で、あんこう鍋の元ともいわれます。名産のあんこうを船上で食べた猟師料理が始まりで、あんこう鍋との大きな違いは水を使わないことです。あん肝を炒った鍋にあんこうと野菜をいれて、身と野菜から水分が出たところに味噌で味を調えます。
な行
・葱鮪鍋(東京都)
ネギとマグロを、醤油・日本酒・味醂・出汁などで煮た日本の料理です。
・のっぺい汁(新潟県)
料理の際に残る野菜の皮やへたをごま油で炒め、煮て汁にしたものです。主にサトイモ、ニンジン、コンニャク、シイタケ、油揚などを出汁で煮て、醤油、食塩などで味を調え、片栗粉などでとろみをつけたものです。
は行
・はりはり鍋(大阪府)
鯨肉と水菜を用いた鍋料理です。近畿地方の料理で、大阪でよく食べられました。「はりはり」は、水菜の繊維質によるシャキシャキとした食感から来た表現です。一般的な鍋料理とは違い、水菜と鯨肉(もしくは鯨肉以外の代用の肉)以外は何も入れない簡素な料理です。
・美酒鍋(広島県)
鶏肉、または豚肉と野菜を日本酒と塩・胡椒で味付けするシンプルな鍋。「しょなべ」、または 「びしゅなべ」と呼ばれています。
・ぼたん鍋(神奈川県、兵庫県)
猪肉は縄文時代からよく食べられていた食材であり、これを具材に加えた鍋料理は日本各地に見られます。ぼたんの名は、使われる猪肉を薄切りにし、牡丹の花に似せて皿の上に盛りつける事に因んでいます。
ま行
・まる鍋(京都府)
スッポンを使った鍋料理で主に京都を中心とした関西地方の料理です。専門店ではスッポンの出汁が染みついた年代物の土鍋を使うこともあります。
・水炊き(福岡県)
水炊きの名の通り、水からぶつ切りの骨付き鶏肉を煮込み、ねぎや好みの野菜を入れ、ポン酢で食すべる鍋料理です。コラーゲンたっぷりで美容に最適です。
・味噌煮込みうどん(愛知県)
味噌仕立ての汁でうどんを煮込んだ麵料理です。主に土鍋を用いて煮込まれることが多く、鍋焼きうどんとともに煮込みうどんの一種であるともいえます。
・もつ鍋(福岡県)
鰹や昆布などでとったダシに醤油や味噌で味つけし、その中に下処理したもつと大量のニラ・キャベツと、もつの臭みを消すためのニンニクのほか、好みで唐辛子(鷹の爪)を入れ、煮込んで食べます。
や行
・柳川鍋(東京都)
ドジョウを使った江戸生まれの鍋料理です。開いたドジョウと笹掻きにしたゴボウを味醂と醤油の割下で煮て鶏卵で綴じます。肉類などを柳川と同じように、笹掻きゴボウと共に甘辛く煮て卵で閉じたものを「○○の柳川」あるいは「柳川風」と呼ぶことも多いです。
・湯豆腐(京都府)
材料は豆腐、水、昆布、つけダレのみです。鍋に昆布を敷き豆腐を入れ、温まったところを引き揚げてつけダレで食べます。
わ行
・若草鍋(奈良県)
山盛りのほうれん草を土台とし、伊勢エビやタイなどの海鮮や野菜、湯葉ほか20種以上の素材を山状に盛り付けした鍋です。特別にあつらえた土鍋と炭で煮込みます。